床材の知識

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    2024.8.20

    商業空間共用ゾーンのデザインプロセス

    監修

    インテリアコーディネーター/窓装飾プランナー/キッチンスペシャリスト猿渡 奈央

    海外の有名床材ブランドなどを取り扱うインテリア総合商社勤務。インテリアコーディネーター、窓装飾プランナーの資格を保有。

    週末に家族で郊外の大型商業施設に行く、仕事のあとに駅ナカで買いものをして帰る、など、商業空間は現代の私たちの生活のなかに溶け込んでいます。

    衣食住を満たすアイテムのワンストップショッピングを可能にするだけでなく、施設によっては映画館やアスレチックなどのエンタテイメント機能、ミュージアムや展望台などのカルチャー機能を備え、モノ消費からコト消費へとその役割を広げた商業施設は、いまや生活を支えるインフラのひとつといっても過言ではありません。

    そのような商業施設の共用部分のデザインは、施設全体の魅力を高め、来訪者に快適な体験を提供するために重要な役割を果たします。共用部分とは、エントランス、ロビー、通路、エレベーターエリア、トイレなど、だれもが共通して使用する空間を指し、これらのエリアは、利用者の印象を決定づけるだけでなく、商業施設のブランドイメージをも形成します。今回は、プロジェクトの意思決定に携わる方のため、施設イメージを大きく左右する商業施設の共用部分のデザインプロセスについて説明します。(既存施設のリニューアルと仮定)

    実際のデザインプロセス

    プロジェクトスコープの決定

    施設の改装計画が持ち上がる場合、商業ビルであれば開業から5〜10年程度、ショッピングモールでは15年程度が経過していると考えられます。オープン時から前もって定期的な改装スパンを織り込んでいるところもありますが、多くは設備の老朽化、メインテナントの入れ替え、周辺環境の変化(競合店のオープン)など、内的・外的要因から施設のテコ入れが行われます。リニューアルでは、既存のマスタープランがある程度のベースになっていることもありますが、実際のデザインを進めるにあたっては、改装規模により範囲や具体的なエリア(例えば、フロア、通路、エントランスなど)を特定し、プロジェクトの規模や予算を検討、把握します。

    マーケットリサーチ

    1)現地調査や視察
    施設の物理的な条件や制約(スペース、照明、動線など)を確認します。

    2)ユーザーリサーチ
    実際の利用者の年齢層、構成比、行動パターンの調査、施設ブランドイメージ、期待するサービスなどを理解するために、アンケートやインタビュー調査を実施します。

    3)ターゲットの設定
    リニューアルでメインターゲットとなる顧客層を設定します。

    ブランドアイデンティティとコンセプトの策定

    1)ブランドメッセージの明確化
    発信したいブランドイメージやメッセージを明確にすることが大きなポイントです。顧客の裾野を広げたい、従来のイメージを刷新したい、といった場合は特に重要なステップです。

    2)デザインコンセプトの策定

    • アイデア出し:定まったブランドメッセージを基にブレインストーミングを行い、さまざまなアイデアを出しながらデザインの方向性を検討します。
    • デザインテーマ:デザインのテーマやスタイルを決定し、ブランドイメージと一致させます。
    • コンセプトスケッチ:初期段階のデザインアイデアをスケッチやラフな図面で可視化し、方向性をすりあわせます。スケッチのほか、デザインコンセプトを具体的な言葉やコピーなどで説明する資料もあわせて作成されることがほとんどです。この段階で、改装プランの基本的な構想がまとまります。

    デザインコンセプトの策定は、全体の方向性を決定する重要なステップです。

    詳細デザインの実施

    コンセプトが決定したら、つぎに詳細なデザインプランを作成します。

    1)レイアウトプランの作成
    具体的なレイアウトプランを作成します。これには、家具の配置、動線の確保、利用者の動きなどを考慮して、空間を効果的に活用するための設計が含まれます。

    2)素材と仕上げの選定
    使用する材料や仕上げの選定を行います。たとえば化粧室であれば、耐久性、メンテナンスのしやすさ、コストなどを考慮して、デザインコンセプトと一致する最適な化粧台や鏡などを選び、デザインに落とし込んでいきます。

    3)ビジュアルデザイン
    色彩計画(カラーパレット)、照明計画など、空間のビジュアル要素を決定します。共用通路であればそこに置かれるソファやインテリアなどの要素も含めてデザインが一貫性を持ち、全体のブランドイメージに合致するようにします。

    詳細なデザインが決まると、スケジュールにあわせ実際の改装や施工に向けて具体的に進むことになります。予算や工期との兼ね合いで大規模な一括リニューアルではなく、いくつかの段階に分けて進める場合などもありますが、フェーズが分かれても施設としてデザインの方向性が定まっており、デザインコンセプトと合致していることが肝要です。

    商業空間のデザイントレンド

    最後に、商業空間のデザイントレンドをいくつか紹介しておきましょう。

    1)サステナビリティとエコロジカルなデザイン
    サステナブル(持続可能)な未来を目指すため、環境への影響を考慮し環境保護を主眼に置いたデザインアプローチはいまもっとも注目のテーマです。エネルギー効率の良い設備の使用、再生木材やリサイクルされた金属・ガラスの使用、輸送によるCO2排出を削減するために地元で調達可能な材料を採用することなどがこれにあたります。

    設計に関するところでは、「断熱」「蓄電」「気密」などの言葉がよくきかれるようになりましたが、風や日光など自然の力を利用してエネルギー消費を最小限に抑えるパッシブデザインが代表例。断熱性の高い建材の使用や、自然光を最大限に取り入れる窓の配置などがその例です。グリーンルーフや、店舗空間では、VOC(揮発性有機化合物)が少ない塗料や壁紙など、エコフレンドリーな内装材が選ばれます。

    近年、エコフレンドリーな床材も施工意思決定者の耳目を集めています。例えばドイツ発のModular One床材は、牛乳パックにも用いられるポリプロピレン樹脂を用いた、環境と健康に配慮した次世代型の床材として知られています。

    Modular One :Oak Sprit Natural
    Modular One Oak Sprit Natural

    2)体験型デザイン
    店舗内でのワークショップ、試用コーナー、体験型展示など、利用者に特別で記憶に残る体験を提供することに焦点を当てた空間です。単に商品やサービスを提供するのではなく、空間全体を通じてブランドとユーザーの感情的なつながりを深めることを目的として、双方向コミュニケーションを生じさせる仕掛けが施されています。

    例えば、デジタルサイネージ、インタラクティブなディスプレイ、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)などがその例。ブランドの物語やテーマに基づいたデザイン、空間全体で一貫したストーリーを表現することで、聴覚や視覚など五感に訴えかける深いブランド体験を提供します。

    3)フレキシブルなデザイン
    従来のようなひとつの使い方に限定されず、多目的に空間を使うことも昨今のトレンドです。ビジネスのニーズや利用者の要望に応じて、空間を簡単に変更できるようにするデザインアプローチです。例えば、取り外し可能なモジュラー家具や可動式のパーティションを使っていつでもレイアウトを変更できるようにしたり、一つの空間を昼間はカフェ、夜間はイベントスペースとして、あるいは昼間はコワーキングスペース、夜はカフェバーとして利用するなど、業種にしばられない多機能なスペース利用がこれにあたります。

    IT技術の進化、環境保護意識の高まり、社会構造の変化など、多くの要因が絡み合い、商業空間を取り巻く要素、そして商業そのものが大きく変わっています。2000年に大規模小売店舗立地法(大店立地法)が制定されて以降、ショッピングモールの建設が加速しましたが、モノの売り買いをしていただけの場所から、エンタテイメント、カルチャー、学び、包括的な「体験」の場へと約20年のあいだにすさまじいスピードで変化を遂げました。テナントの専用部分と異なり、すべての利用者を迎えいれる共用ゾーンに求められる役割も、常に進化しているのです。

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