床材の知識

2023.6.12

ドイツの家具はなぜ高品質で長持ちなのか?その特徴と健康対策

監修

インテリアコーディネーター/窓装飾プランナー亀田彩夏

海外の有名床材ブランドなどを取り扱うインテリア総合商社勤務。インテリアコーディネーター、窓装飾プランナーの資格を保有。

ドイツ製品は、工業分野に限らず家具業界でも世界的に高い評価を得ています。多くの人がドイツ製の家具を選ぶ理由のひとつに、その堅牢さと品質の高さがあげられます。ドイツの家具メーカーは、品質に対するこだわりと高い技術力、そして厳格な認証システムによって、耐久性と安全性に優れた家具を作り続けています。今回は、ドイツ家具の特徴と高品質の秘密、そしてその安全性を支える健康と環境への取り組みにフォーカスします。

1. ドイツの家具の特徴

シンプルで機能性を重視したドイツのプロダクトデザインは、家具づくりにおいても一貫しています。特徴として

  • 長く使える堅牢なつくり
  • 合理的で無駄のないデザイン
  • 材料調達や製造過程における環境への配慮
  • 健康への配慮

があげられるように、丈夫でエコフレンドリーなイメージが根付いています。ドイツの家具は19世紀から20世紀にかけて興ったアール・ヌーヴォーやバウハウスなどの芸術運動の影響を色濃く受けて、モダンに進化してきました。伝統的な工業国ならではの高い技術力をベースに、高品質で高機能、かつ耐久性・デザイン性に優れた製品が日々生み出されています。

ドイツにおける家具は「快適であること(Gemütlichkeit)」や「機能性(Funktionalität)」に加えて、家主の個性を示す役割も担っています。家は、ドイツ人にとってプライバシーの場であると同時に社会的コミュニケーションの場であり、自己表現のための空間とも言い換えられます。 そのため、家を彩る家具や装飾品のセレクトにおいて、自分の個性を示すことへのこだわりが強い人が少なくありません。大規模家具メーカーによる大量生産品ではなく、オーダーメード品や中古品の人気が高いのも、こういったドイツ人の嗜好が影響しているのでしょう。

ドイツで家具に用いられる木材は、オーク、ビーチ、マホガニー、チェリー、パインなどが代表格で、強度や色合いに応じて使い分けられています。耐久性が高いオークやビーチ材は床材をはじめとする内装材やキャビネット、木目と色合いが美しく高級感があるマホガニーやチェリー材はテーブルやドア、柔らかく軽いパインは子供部屋の家具に頻繁に用いられています。特にドイツの国民的樹木と言われるオークは、頑丈で加工もしやすい上見た目も美しいため、ドイツのフローリングや家具に重用されているなじみの深い樹種です。

自然との共存を強く求めるドイツの生活において木は欠かせない家具素材ですが、持続可能な森林経営や環境への配慮、またウクライナ侵攻による木材供給の不安定化といった要因から、リサイクル素材を使った木質系素材や人工床材の生産がますます活発になっています。

子供部屋のSPCフロア
オーク材モチーフの人工床材(パラドー社SPCフロア):KUNSTWERK COLLECTION, Oak Natural

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2. 日本の家具との違い

ドイツと日本の家具を比較したとき、もっとも違いが出る要素はサイズとデザインです。ドイツの家具は大きく、重厚感のあるデザインで概して存在感があるのに対し、日本の家具はコンパクトかつ繊細なデザインで、空間に溶け込むものが多いです。両者の差は、それぞれの国の住居の造りに由来しています。ドイツではどっしりとした石造りの住宅が主流であるのに対し、日本では木造の住宅が57%(2018年, ※1)と大半を占めます。各国、その土地の住宅の造りに見合う家具が普及した結果と言えるでしょう。

ドイツのリビングルームに欠かせないのは大きなソファとダイニングテーブル

ドイツでは基本的に床に座らない生活スタイルで目線が高いため、家具の背も高めに設定されています。一方の日本では、生活様式が西洋化したとは言え靴を脱いで床に座るスタイルも想定して設計された家が多く、比較すると家具高は自然と低めになります。

また、住宅の天井高の違いも、両国の家具の高さに影響していると考えられます。日本の住宅の一般的な天井高は2.2〜2.5mですが、ドイツはノイバウ(Neubau:新築・新古住宅)で2.5〜2.7m、アルトバウ(Altbau:目安1948年以前に建てられた古い住宅)で2.8〜3.5mと、頭上の余白と心理的な開放感に大きな違いがあります。ドイツ連邦統計局と日本総務省統計局の調査(※2)によると、両国の一戸あたりの居住面積は92㎡前後で差がないことが報告されていますが、同じ居住面積でも、天井の高いドイツの住宅の方が背の高い家具を置いた時の圧迫感が少なくなります。

3. 家具メーカーの環境と健康への配慮

厳しい安全基準も、ドイツ家具の特長のひとつと言えます。家具の素材や製造過程における環境や安全性に関する欧州(以下EU)・ドイツの基準は、日本に比べて厳しく定められています。「人の健康と環境の高レベルの保護」を目的のひとつに謳ったEU規制である「REACH規則」(2008年6月1日より運用開始)は、EU域内での製造品や輸入品に対し、環境や健康への影響が懸念される化学物質の使用や放出量に関して登録や使用制限を課しています。

具体的な例をあげると、塩化ビニル樹脂などのプラスチックの可塑剤として使われ、内分泌撹乱作用が懸念される「フタル酸エステル類」(DEHP、DINP、 DIDP、DBPなど)は、REACH規制で日本より広範囲の製品に対して重量比0.1%(1000ppm)以上の含有が規制されています(2020年7月〜)。フタル酸エステル類は、建築・内装分野において床材・壁紙・天井材といった内装材、家具のレザー部分、家具の接着剤として幅広く使われている化学物質です。

また、家具に使用される接着剤・防腐剤・染料などに含まれる「ホルムアルデヒド」には発がん性や皮膚・呼吸器への刺激性が認められており、シックハウス症候群の原因とも言われています。日本の厚生労働省が示した指針(1997年)では、室内濃度が0.08ppm相当以下が健康上望ましいとされています。日本では、JAS(日本農林規格)やJIS(日本工業規格)の最上ランクF☆☆☆☆(エフフォースター)を取得するには放出量が平均値0.3mg/L、最大値0.4mg/L(気中濃度換算で0.064ppm)と定められていますが、EUでは家具や木製部分への使用は0.062mg/㎥(=0.000062mg/L)、それ以外の部分には0.08mg/㎥(0.00008mg/L)とかなり厳しく規制されています。

加えて、ドイツ家具品質管理団体(DGM:Deutsche Gütegemeinschaft Möbel e.V.)も、家具のVOC(揮発性有機化合物)放散量に対して「DGMエミッションラベル」という独自の環境マークを設けています。ホルムアルデヒド、TVOC(総揮発性有機化合物)、TSVOC(総半揮発性有機化合物)、CMR(変異原性物質・生殖毒性物質)の4項目(製品によっては6項目)で放散量をクラスAからDまで4段階でランク付けし、ラベルによって消費者に分かりやすく提示しています。放散量の基準は椅子、収納家具、テーブル、ベッドなど家具の種類ごとに細かく設定され、屋内空気環境を悪化させない家具の提供を促進しています。

4. ドイツ企業が取り組む環境対策

地球環境の未来を見据えたサステナブルな取り組みも、ドイツの家具メーカーは積極的に行なっています。持続可能な経済活動と環境負荷の軽減のために行われている代表的な活動を、以下に紹介します。

(1)持続可能な原材料調達

多くの企業は、持続可能な森林経営を評価する国際森林認証制度「PEFC認証」や「FSC認証」を取得している森林から原材料を調達しています。ドイツの森林は2020年、815万ヘクタール(全森林の76.5%)がPEFC認証を、135万ヘクタール(全森林の12.7%)がFSC認証を取得しており、89.2%の森林が認証を受けています。

Statistische Ämter “FSC- und PEFC-zertifizierte Waldflächen” をもとに作成

(2)環境に配慮した製造プロセス

省エネ設備の導入や環境に配慮した廃棄物の処理方法を採用するなどして、環境への負荷を軽減する工夫をしています。多くの企業や事業所は、環境負荷を評価・改善し、環境保護へとつなげる取り組みである欧州環境管理監査制度「EMASシステム」(Eco-Management and Audit Scheme)や、国際的環境マネジメントシステム規格「ISO14001」に参加しています。ドイツ連邦環境庁によると、2021年の時点で約8200のドイツ企業・組織がISO14001認証を取得し、約2200の事業所がEMASに登録しています(※3)。

(3)廃棄を減らす取り組み

高品質で耐久性に優れた商品を提供することで廃棄を減らし、環境負荷を低減する努力をしています。ドイツ品質保証・表示協会(RAL Deutsches Institut für Gütesicherung und Kennzeichnung e. V.)が制定する家具の品質基準「RAL-GZ 430」は、長期間使用に耐えうる品質、VOCの排出量や有害物質の含有量、取り扱い面での安全性など、多角的に製品を評価する仕組みです。同認証ラベルは高い耐久性と安全性を担保すると同時に、環境へも配慮された製品の証明として消費者から支持されています。

こうした試みは、家具だけでなくインテリア全体に及んでおり、例えばドイツの有名床材メーカーParador社はリサイクル可能で環境への負荷の少ない「オレフィン系床」の開発をおこない、SGDsへの貢献に取り組んでいます。

牛乳パックの内部にも使用されると言われる人体に害のない素材を用いたこの新製品は、一般家庭やヨガ教室、ホテルなどの床に多く用いられており、特に環境意識の高い西欧・北欧諸国で人気を博しています。

ドイツのオレフィン系床材 Modular One HydronシリーズのOak Sprit Natural
ドイツの産んだ環境に優しい新世代オレフィン床材

【参考・出典】

※1:総務省統計局.「平成30年住宅・土地統計調査 住宅数概数集計」(PDF). 2019年4月26日発表.
※2:Statistisches Bundesamt(Destatis). “Wohnungsbestand Ende 2021: 43,1 Millionen Wohnungen“. 2022年7月発表., 総務省統計局.「平成30年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計」(PDF). 2019年9月30日発表.
※3:Umwelt Bundesamt. “Umwelt- und Energiemanagement“. 2021年6月4日掲載.

・経済産業省. 「欧州の新たな化学品規制(REACH規則)に関する解説書」(PDF). 2008年3月作成.
・東京都福祉保健局. 「家具からのホルムアルデヒド放散(調査結果)」. 2023年4月参照.
・厚生労働省. 「室内空気中化学物質の室内濃度指針値及び標準的測定方法について」. 2000年6月30日発行.
・RAL Deutsches Institut für Gütesicherung und Kennzeichnung e. V.. “Allgemeine Güte- und Prüfbestimmungen für Möbel − Gütesicherung RAL-GZ 430“. 2019年1月発行.

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