床材の知識

2023.2.20

店舗系の床材に適した素材とは?

監修

インテリアコーディネーター/窓装飾プランナー亀田彩夏

海外の有名床材ブランドなどを取り扱うインテリア総合商社勤務。インテリアコーディネーター、窓装飾プランナーの資格を保有。

居住空間への施工と異なり、集客性のためのデザインやランニングコストのための耐久性なども考慮に入れなくてはいけないのが店舗系物件に当てはめる床材の特徴です。今回の記事では、「店舗への床材への施工」を「よく使われる床材」「それぞれの店舗に適した特徴」「床材ごとのメリット、デメリット」という多角的な観点から解説していきたいと思います。

店舗系の床材に求められること

施工場所、お店のスタイル、コンセプトによって条件は異なりますが、こと “店舗一般” への床材の施工を考える際、重要な点は以下の3項目に集約されていると言って良いでしょう。

  • 価格
  • デザイン性
  • 耐久性・耐水性

店舗物件であるということは、住宅と異なり商業行為が営まれる場所という前提であり、ゆえに集客に間接的に結び付くこととなるデザイン性、およびビジネスの費用面に直結する価格や、ランニングコストに影響を及ぼす耐久性などの点を考慮する必要が出てきます。

注意しなくてはいけないのは、これら一つひとつのポイントは、短期的・表面的にとらえるのではなく、ビジネス活動と結びつけて長期的な視点でとらえるべきであるという点です。例えば価格に関して言えば、単純な「㎡辺りの価格」でもって判断するのではなく、実際の施工費、原状復帰のための費用、改修費などをトータルで試算するのが賢明です。

価格

一般的に、お店やインターネットなどで販売されている床材は㎡辺り(あるいは坪辺り)の単価が示されていますが、現実に施工を考えるとき、施工のための工賃や、原状復帰が必要であればその際の手間や改修費用など、施工性の部分も考慮に入れなくてはいけません。

販売元のブランド力、下床コンディションなどの諸条件に左右されますが、あくまで一般論で述べると「フロアタイル」や「塩ビフロア」といったPVC床材は製品価格も施工価格も他のカテゴリと比べて安い傾向にあり、一方で木製、磁器製の床材は製品単価も施工費用も高く、取り外しも難しい傾向にあります。素材の硬さがPVCと磁器タイルの中間のようなSPCなどは、価格面でも中間的な立ち位置にあることが多いでしょう。

素材施工価格取り外し価格トータルコスト
長尺シートPVC安い安い安い
フロアタイルPVC安い普通安い
複合フローリング木材高い高い中等度
SPCフロア(欧米製)SPC普通安い中等度
単層フローリング木材高い高い高い
磁器タイル磁器高い高い高い
※価格はあくまで参考で、実際には個々の製品・メーカーによって異なります。

トータルコストといった面にのみ言及すれば、フロアタイルや長尺シートといったソフトな素材が有利ですが、往々にしてデザイン性や耐久性とトレードオフの関係にあります。

デザイン性

店舗のコンセプトが高級志向であればあるほど、お店の雰囲気、ひいては集客に影響を及ぼすため、床材そのものの持つユニーク性、塗料や印刷紙の良しあし、リアリスティックなデザイン性などが重要です。安価な素材ではどうしても人工物感、チープさが滲み出てしまうため、木目を模したような床材ではやはり飽きの来ない、本物の木材に近しいようなデザインが求められる形になるでしょう。

必ずしも素材の違いがデザインの良しあしを決めることにはなりませんが、一般論で国内大量生産品になるとユニーク性が薄れる傾向にあります。その点、一点一点が完全に異なった様相を携えた無垢フローリングなどはデザイン性が “良い” と見なされることが多いです。非木質系の床材であっても、目線の働きや、人々が心地よいと感じる木目のパターンなどの研究に余念のないブランドであれば同様にデザイン性が良いと見なされます。

ドイツインテリア業界で高い評価を得る独パラドー社のデザイン

一方、デザイン性を語るうえで欠かせないのが全体や、床材そのものの持つデザイン性だけでなく、お店のコンセプトとの調和です。どんなに高級な床材でも、内装次第ではその雰囲気が台無しになってしまうことでしょう。そのため、一般的には店舗系の内装案件にはデザイナーや設計士との協業がオススメされることとなります。

耐久性・耐水性

上述のランニングコストとデザイン性の双方に間接的な影響を及ぼすことになるのが、床材の持つ耐久性・耐水性です。一般的に長尺シートやフロアタイルといった弾力性の高い床材は単価が安く施工が容易であるという長所を持つ一方、耐久力の点で少なからずデメリットを抱えています。特に、土足で多くの集客が見込まれるようなテナントであると、一般住宅の何倍も早く摩耗が行われることとなり、見た目(デザイン性)に悪影響を与えます。

耐水性も無視できません。衛生的、安全上の問題は勿論、飲食店など水を多く扱う店舗形態において、基本的に湿気やたまり水に弱い木質フローリングは避けられることが少なくありません。

耐久性耐水性
長尺シート
フロアタイル
複合フローリング
ドイツ製SPC
単層フローリング
磁器タイル

オススメの床材と特徴

予算やお店のコンセプトによって最適解は異なるため、一概に「どの床材が最適か」の判断は下しづらいと言えます。例えば、木質系フローリングは土足や水に弱いため(強いコーティングがされているものもありますが)、大衆食堂や飲食店などでは避けられる傾向にありますが、かといって施工は不可能ではありませんし、場合によっては店舗の中で木質系フローリングが使用される場面も多数あります。また、病院や美容院のように髪染めや薬品など特殊な液体を用いる場面では、衛生面などの観点から特殊な床材を用いることもあります。

ただ、こうした諸条件をある程度除外し、あくまで一般論で話すのであれば、用いられる床材の種類はある程度以下のように絞られる傾向にあると言えるでしょう。

  • 予算が安く施工しやすい「長尺シート」「フロアタイル」等
  • 施工のハードルは低くないが、高度な耐久性と耐水性を誇る「磁器タイル」
  • 耐久性、耐水性でオールラウンダーの強みを持つ「SPCフロア」
  • 木質ならではの自然のデザインと温かさを持つ「木質系フローリング」
長尺シート/フロアタイル複合フローリングSPCフロア単層フローリング磁器タイルカーペット
大衆食堂
レストラン
カフェ
小売店
アパレル
賃貸系
美容院
ホテル(玄関)
ホテル(客室)

総じて、価格面で手の出しやすい塩ビ系のフロアタイル、オールマイティに耐久性を発揮する磁器タイル、そして塩ビと磁器タイルの中間に位置するSPCフロアなどが商業施設や店舗系の床材に使用されやすいと言えます。

磁器タイル

磁器タイル(セラミックタイル)は、土足や雨水にも耐えうる高度な耐久性・耐水性を備えた、まさに店舗系、商業施設の床材の代名詞とも言えるでしょう。本物の花崗岩や大理石のようなものから、自然界に存在しない絵模様などを自在に再現でき、近年では木目調のものも人気を博しています。

一般的なセラミックタイル
一般的なセラミックタイル

耐水性に優れているため水洗いが可能で、特に広範囲を特殊な機具を用いて清掃するような大型レストラン、ホテルのエントランス、百貨店、駅構内などには重宝されています。その一方で、セラミック特有の硬さと冷たさを持つため、屋内などには使用しずらいとも言えます。また、陶器という構造上、後述するSPCなどと比べるとデザインの繊細さに欠けることがあります。

木目調磁器タイル
木目調磁器タイル

メリット:

  • 高度な耐久性を持つ
  • 耐水・耐熱性に優れる
  • メンテナンスがしやすい

デメリット:

  • 施工費用が高い
  • 原状復帰が難しい
  • デザインが一辺倒になりがちである、繊細さに欠ける
  • 固さと冷たさを持つため、居住空間には使用しづらい
  • 滑りやすいものもある

長尺シート

3㎜厚前後の樹脂製床材で、弾力性を持ち、施工が容易である特徴を持ちます。その施工性と手頃な価格感から、店舗物件などでも気軽に使用することができ、人気を博している床材カテゴリの一つです。また、同質素材で厚手のフロアタイルは、長尺シートよりも耐久性が高く、同じく店舗物件で使用されやすいカテゴリと言えるでしょう。

表層も土足対応としてコーティングがなされてはいますが、硬質なセラミックタイルやSPCフロアと比較すると耐久性で引けを取る傾向にあります。

メリット:

  • 価格がお手頃
  • 施工がしやすい
  • メンテナンスがしやすい
  • 豊富にデザインが存在する

デメリット:

  • 似たようなデザインが多い
  • 耐久性の点では他の硬質な床材に引けを取ることが多い

木質フローリング

小洒落たカフェ・喫茶店やレストラン、レンタルオフィスやアパレルショップなど、少し独自のこだわりを見せる空間には木質フローリングが使用されるケースも多々あります。一般的には土足への耐久性が他の床材カテゴリと比較して脆弱で、耐水性に乏しいことから店舗物件には適さないという声もありますが、実際には音響効果、光の反射効果、弾力性などの面でメリットを持ち、幼稚園や介護施設などでむしろ好んで用いられることもあります。

最も、その施工費を含めた価格面に目を向けるとやはりその他の床材カテゴリよりは高額になってしまう傾向もあり、店舗の中でも例えば一区画を木質フローリングで施工し、水回りなどはセラミックタイルなどその他のカテゴリで代用する方法も見受けられます。

メリット:

  • 温かい印象を与える
  • 一つ一つの床材が異なる表情を持つ
  • デザイン性として、様々なコンセプトに当てはめやすい
  • デザインが一辺倒になりにくい

デメリット:

  • 原材料が高い
  • 施工費用が高い
  • 原状復帰が難しい
  • メンテナンスが難しい
  • 土足などに対する耐久面で不安がある

SPCフロア

耐熱性、耐久性にデメリットを抱えやすい塩ビフロアと、施工性、デザイン性に問題を抱えるセラミックタイルのちょうど中間のような位置づけで誕生したのが、PVC樹脂に石灰石を混ぜ込んで作られたSPCフロアです。塩ビフロアのように豊富なデザイン性と、セラミックタイルのような耐熱性、耐久性を追求し、まさにその良いとこどりに成功し、現在では欧米先進国で人気を博す床材カテゴリとなっています。

中嶋家具工芸株式会社様 施工実績

SPCフロアの詳細なスペックは、メーカーや原産国によって異なりますが、ドイツのパラドー社製SPCフロアを例にとると、欧米の土足での対応を前提としているため耐久性にすぐれ、店舗使用においても表面の摩耗が目立ちづらいと言えます。

株式会社プロセス井口様 施工実績

また、耐久面だけでなくデザイン面においても特殊シートと表層コーティングを使用し、本物のオークそっくりの絵模様を再現していることから、各国のデザイナーから高い評価を得ています。

メリット:

  • デザインが一辺倒になりにくい
  • 耐水・耐熱に優れる
  • 耐久性に優れる
  • 取り外し・原状復帰が容易
  • メンテナンスがしやすい

デメリット:

  • 施工にコツがいる
  • 地区によっては扱っている代理店が少ない

店舗形態別 床材の選択

上述の通り、一般的に店舗への床材選定を論じる際には「価格」「デザイン」「耐久」の3要素が重要視されることになります。最も、店舗の形態に応じてはその中の特定要素の配分が大きくなることもありますので、以下にいくつかの例を紹介していきます。

大衆食堂

後述のように雰囲気で客層をカバーするレストランやバーと違い、どちらかというと料理の量や質で勝負することの多い大衆食堂にあっては、デザイン性よりも耐久性や耐水性、メンテナンスのしやすさや初期費用の安さが重要視される傾向にあると言えます。

特に、多くの客先で賑わう繁華街、駅チカの物件となると多くの土足での耐久性に優れたセラミックタイルが好まれることでしょう。一方で、耐久性は劣るものの初期費用の安い長尺シートやフロアタイルもビジネススパンによっては候補として入ってきます。

大衆食堂
長尺シート/フロアタイル
複合フローリング
SPCフロア
単層フローリング
磁器タイル
カーペット

飲食店・カフェ・喫茶店

値段や量が重要視される大衆食堂と異なり、デートや家族サービスなどで用いられることの多い、高級レストラン、カフェ、バーなどにおいては、味やサービスは勿論、そのお店がもつ雰囲気そのものが重要視される傾向にあります。

リクルート社資料を元に著者作成

そういった意味で、飲食店の客足、ひいては売上に直結することとなる床材のデザイン性はかなり重要な配分を占めることとなるでしょう。加えて、床材の耐久性も無視はできません。椅子やテーブルの上げ下げ、台車の行き来で床材が摩耗し、剥げてしまうと貧相に見えてしまうため、交換のしやすく初期費用の抑えられる「長尺シート」や「フロアタイル」に加え、長期的に表面のクオリティを保てる「セラミックタイル」や「SPCフロア」、耐水性には劣るものの独特の雰囲気を醸すことのできる「木質フローリング」などが適していると言えます。

レストランカフェ
長尺シート/フロアタイル
複合フローリング
SPCフロア
単層フローリング
磁器タイル
カーペット

参考記事:
カフェに適した床材
飲食店に適した床材
喫茶店に適した床材

アパレルショップ

客を引き付けるデザイン性や雰囲気づくりは勿論のこと、日々の清掃(特に掃き掃除)に適した床材選びが重要になってくるアパレルショップ。

そのため、あくまでコンセプト次第ということとなり、一概に人気の床材の特定が難しいジャンルと言えますが、一般的には他の店舗カテゴリ同様、セラミックタイルや長尺シート、コンセプト次第でカーペットや木質フローリング、SPCフロアなども用いられる傾向にあります。台車などを用いる店舗形態の場合耐久性には注意が必要ですが、直接水を扱うレストランのような制約が無いため、基本的にはどのような床材でも当てはめやすい物件と言えるでしょう。

アパレル
長尺シート/フロアタイル
複合フローリング
SPCフロア
単層フローリング
磁器タイル
カーペット

参考記事:アパレル店舗に適した床材

小売店・ショップ

アパレルショップ同様、販売製品や出店場所など、お店のコンセプトによって適した床材カテゴリは異なりますが、基本的にどのような床材であっても当てはめやすいと言えるでしょう。ただし、扱う製品によっては台車や清掃器具の使用がマストとなるため、やはり耐久性に優れたSPCフロアやセラミックタイル、あるいは初期費用を抑え取り換えの容易なフロアタイルなどが用いられやすい傾向にあります。

小売店
長尺シート/フロアタイル
複合フローリング
SPCフロア
単層フローリング
磁器タイル
カーペット

参考記事:小売店・ショップにおけるオススメ床材の特徴

ホテル

実用的な部分以外にも、雰囲気作りが欠かせないのがホテルの床材選びと言えます。また、土足で大勢が使用するエントランスなど共用部分と、落ち着いた空間作りが必要な客室部分とでは必要とされる床材のカテゴリが異なる点に注意が必要です。

エントランス部分にあっては、高級感を保ちつつ、かつ耐久性に優れたセラミックタイルか、同様に石灰石を混ぜ込み、石目調のデザインを用いたSPCフロアの使用が望ましいと言えます。

ホテルの客室は、不特定多数の人数が使用するため耐久性やデザイン性も重要である一方、「落ち着ける」環境であることがやはり重要であると言えます。足腰に負担のあり、冬場には冷たいセラミックタイルは脱衣所などに限定され、一般的にはカーペットなどが用いられることが多いでしょう。

ホテル(玄関)ホテル(客室)
長尺シート/フロアタイル
複合フローリング
SPCフロア
単層フローリング
磁器タイル
カーペット

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