カタログダウンロード
下記項目にご入力のうえ、送信ください
2022.6.23
【隠れた王者】メイド・イン・ジャーマニー製品はなぜ魅力的なのか?
監修
インテリアコーディネーター/窓装飾プランナー亀田彩夏
海外の有名床材ブランドなどを取り扱うインテリア総合商社勤務。インテリアコーディネーター、窓装飾プランナーの資格を保有。
日本人にとってドイツと言えば「ビール」や「サッカー」のイメージが強く、ドイツ製のプロダクトとしても「車」(ベンツ、ポルシェ)や「機械」(ミーレ、ボッシュ)といった特定のブランド名が思い浮かびやすいかと思います。
世界の市場ではドイツ製というイメージは特定の製品というよりも「メイド・イン・ジャーマニー」というドイツで作られた物全般に与えられる呼称で、消費者から高い信頼を得ています。今回は、日本人にはなじみの薄い「メイド・イン・ジャーマニー」の魅力と歴史について解説をおこないたいと思います。
メイド・イン・ジャーマニーの歴史
日本に住んでいると、車以外で中々お目にかかることの少ない「メイド・イン・ジャーマニー」ですが、43,000人の消費者の意見を元に格付けされた原産地ランキング「Made-In-Country-Index」によると、メイド・イン・ジャーマニー(ドイツ製)は日本やアメリカを抑え、世界で最も評価の高い原産地としての評価を下されています。
勿論、このランキングは消費者意識によって作られたものであり、必ずしも商品の価値やクオリティと同じ重みをもつわけではありませんが、過去の実績やブランディングから、いかにドイツ製が世界で信頼されているかがイメージできるのではないでしょうか。
1位 | ドイツ |
2位 | スイス |
3位 | 欧州連合 |
4位 | イギリス |
5位 | スウェーデン |
8位 | 日本 |
10位 | アメリカ |
49位 | 中国 |
最も、このメイド・イン・ジャーマニーは歴史の初めから「高品質」の代名詞として使用されていたのではなく、本来的にはマイナスイメージでもって政治利用されていました。そもそも商品の原産地の明記が必要になったのは、19世紀末の産業革命で、当時の経済の中心地であったイギリスに大量の安価な外国製品(ドイツ含む)が輸入されるようになり、国産品と外国製を区別するために「メイド・イン・XX」といった呼称が用いられるようになったのです。
また、戦争中は、たびたび「敵国製」としてボイコットの対象となりました。 メイド・イン・ジャーマニーの名称が本格的に「高品質」の代名詞となったのは、第二次世界大戦後、ドイツ経済の復興が始まってからです。戦争によって国土の大半が灰燼に帰したドイツですが、日本の戦後復興同様、持ち前の技術力と勤勉さを武器に奇跡的な発展を遂げ、1980年代には日本やアメリカと、世界の貿易覇権を争うまでに至りました。
メイド・イン・ジャーマニーの特徴と強み
ドイツ製品の世界的な成功は、たびたび経営学の世界でもマイケル・ポーターの競争戦略やドラッカー理論と結びついて研究がなされています。例えば、「Hidden champion(隠れた王者)」という概念の名付け親であるドイツの経営コンサルタント、ハーマン・サイモンは、世界の「ニッチ産業のトップ3シェアを握る」2,700社のうち、実に50%をドイツの中小企業が独占していることを突き止め、その強さの秘密を探りました。
(Institut der deutschen Wirtschaftを元に著者作成)
ハーマン・サイモン氏によると、ドイツ企業の強みは以下のような特徴に集約されます。
- 高い工業力・技術力による専門性の確保
- 専門分野における集中的なイノベーション投資
- 専門分野における高い特許取得率と技術のブラックボックス化
要するに、その成功モデルは、高い専門性を活かして競合のいないブルーオーシャンを迅速に確保し、その市場における優位性を技術投資で固める、という、ドイツの国民意識を反映したような徹頭徹尾効率的な生存戦略に集約されます。
ドイツの企業形態を見てみると確かに、大型のコングロマリットを除けば、他業種や他製品にあまり浮気をせず、基本的には自身の専門分野に忠実に、資本と労働力を集中させる「選択と集中型」ビジネスモデルが目立つことが分かります。戦争理論などで使用されるランチェスターの法則で説明されるように、迅速に己の強みを結集し、敵の専門性の薄い部分を叩く、というプロシア帝国のお家芸であった機動と集中の原則を、ドイツの中小企業は今でも忠実に守って成功を収めているわけです。
(例えば後述の通り、建材分野に目を向けてみると、ドイツの床材メーカーは文字通り「床材」のみを製造しており、日本の床材メーカーが床や壁やドアなど内装材全般にリソースを割いているのとは根本的に戦略が異なります)
メイド・イン・ジャーマニー床材の魅力
上述の通り、ドイツ製品の強みは己の得意分野に注力した、徹頭徹尾の専門性と他社との差別化です。建材分野でもこの方法論は同様で、ドイツの最大手床材メーカーの一つ、パラドー社は他社には真似のしづらい、芸術レベルまで研ぎ澄まされた “デザイン性” と “高い耐久性” によって、床材製品の差別化に成功しています。
- 元家具職人としての専門性を踏襲した、高度な木材加工・着色の技術優位
- 著名デザイナーや建築家との長年のコラボを経て蓄積された、模倣困難なデザイン構成力
- 自社研究施設への投資と独自技術・特許の開発
- 高度な海外市場への展開力とネットワーク
一つの床材を仕上げるために、何百という古材の山を探索し、光学的、印刷技術的、デザイン的な観点から、職人、技術者、デザイナーの力を結集する愚直なまでのパラドー社の一点集中戦略は、大量生産・大量消費世界にあって短期的な観点からみれば実に非効率ですが、独自の技術と製品をユニーク化するという意味で、長期的には大成功を収めました。
床材分野の中で異なる「無垢フローリング」「ラミネート」「塩ビ系床」というポートフォリオは持ちつつも他分野へのリソースの分散を行わず、床材メーカーとしての専門性を愚直に研ぎ澄まし続けた姿勢こそが、国内外での高い名声を得ることに繋がったと考えられています。
当然、国や文化によってメーカーの強みを持たせるやり方、戦略は異なってきます。日本のように製品だけではなく信頼や人との繋がりでビジネスが成り立つ国においては、むしろ様々な内装材を生産・販売することのほうが得策であるのかも知れません。一方で、「床材」という専門の刃のみを長年鍛錬し続けた真正なドイツの製品を味わってみるのも、日本人として中々粋な試みではないでしょうか。
PICKUP STORY