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2022.7.13
ヨーロッパ原産オーク床材の歴史と将来
監修
インテリアコーディネーター/窓装飾プランナー亀田彩夏
海外の有名床材ブランドなどを取り扱うインテリア総合商社勤務。インテリアコーディネーター、窓装飾プランナーの資格を保有。
日本人にとって思い入れの強い樹種は何かと問われると、一言に答えるのは容易ではありません。建材としてはヒノキや杉、文化的象徴としては桜が一般的で、地域によってはマツ、ナラ、イチョウ、楓辺りを思い入れのある樹木として挙げる人もいるのではないでしょうか。
一方、ドイツ人にとって思い入れの強い樹木はとなると、恐らくほとんどのドイツ人が口をそろえて「オーク」を挙げるでしょう。建材、家具、造船から酒造、キノコの苗床まで、生活一般に関わるだけでなく、宗教、文化、詩歌、絵画といった国民のアイデンティティに密接に関わる、日本人にとっての桜と杉を混ぜ合わせたような意味合いを持ちます。
ドイツだけでなく多くのヨーロッパ人にとってなじみの深いオークで、当然床材との関係も親密なのですが、昨今の木材供給を取り巻く状況は一変し、オークは身近な樹種ではなくなりつつあります。今回は、オークの歴史に焦点をあて、今後の床材利用としてのオークの将来をヨーロッパの視点から解説していきたいと思います。
ヨーロッパ原産オーク材の歴史
諸説ありますが、現在世界に広まるオークの原型となる樹種が歴史に登場したのは3500万年で、人類の誕生とされる500万年前よりはるか昔から地球上に存在していたこととなります。現在では近縁種も含めると500近い種類を持ち、代表的なところではヨーロピアンオーク(Quercus robur)、フユナラ(Quercus petraea)、クヌギ(Quercus acutissima)、レッドオーク(Quercus rubra)などが挙げられます。日本にもオークは分布しており、寒冷な気候を好む北海道原産のミズナラ等が有名でしょう。
ヨーロッパ全土で手に入る代表的な広葉樹であり、見目が良く、堅く、強く、たくましいことから、家具や建材、ウイスキー樽、船材などへの生活基盤としての利用は勿論、文学作品や絵画作品、宗教などでも度々「生命力の象徴」として敬意をもって扱われてきました。世界最古のオークはアメリカにある樹齢2000年を超えるペチャンガ・グレート・オークで、ヨーロッパではブルガリア、リトアニア、デンマークなどにそれぞれ樹齢1500年近いオークが存在しています。
イギリス
ヨーロピアンオークは別名ブリティッシュオークとも言われ、その頑丈さと美しさから、様々な用途で使用されてきました。イギリスらしいオーク材の代表的なところではイギリス名産のウイスキー樽や、イギリス海軍の造船材としての使用でしょうか。特に、イギリス海軍では頑丈なオーク材は19世紀になるまで使用され、イギリス海軍の行進曲のタイトルに「ハート・オブ・オーク」と名付けられる由縁になっています。
イギリスの古いカップルはオークの木の下で婚礼をかわし、とこしえの愛を誓うことが習わしでした。イギリスの文豪シェイクスピアはオークの木に度々文学的なインスピレーションを受けたとされ、現在でもシェイクスピアが愛した「シェイクスピアのオーク」はイギリスのストーンリー敷地内に保管されています。
ドイツ
旧約聖書には既にオークの木への言及がありますが、キリスト教がゲルマン圏に到達するより以前から、すでに古来ゲルマン民族たちはオークを神聖な木として崇めており、その血脈は現在に至るドイツ人のオーク信仰に脈々と受け継がれています。キリスト教伝来以来、多くのマリア像は神聖な力の宿るオークの木から切り出されました。
ドイツ人の生活と密接に関わっているオークは、ドイツの民謡、詩作品や絵画にもたびたび登場し、諺などを通じて国民の生活に今でも親しまれています。代表的なところではEichen sollst du weichen, Buchen sollst du suchen(雷がなったら、背が高いオークの近くは危険なので、ブナの近くに隠れろ)やGrünen die Eichen vor dem Mai, zeigt’s, daß der Sommer fruchtbar sei(5月前にオークが緑になれば、その夏は実り豊かになる)などが挙げられます。
ドイツの建築の歴史を紐解くと、こうした手に入りやすさ、土足にも耐えうる頑丈さ、神秘的な力などから、しばしば教会や公的機関内部の内装、特に壁やフローリングにもオーク材が用いられてきました。
このようにドイツ国民とともに歴史を歩んできたオークですが、最近では、温暖化の影響でキクイムシ(樹木に伝染し、中をスカスカにする)やオーク毛虫の発生が問題視されています。
フランス
上記の二か国同様、フランスでもオークは国を代表する樹種として、国民に親しみをもって扱われています。特に、フレンチオークと呼ばれる(他のヨーロッパ産のオークよりもタンニンを多く含む)樹種は美しい色合いを醸すため、高級内装材として用いられています。フランスでオークは建築用途(フランスの建築木材の25%をオークが占める)や家具用途だけでなく、シェリー酒やワインといった酒造目的でも広く用いられ、フランスのアルコール産業と密接な関係を持っています。
フランスのオークにまつわる面白い逸話では、ノルマンディー地方には樹齢1000年を超えるというチャペル・オーク(フランス語でChêne chapelle)というものが存在し、500年前の落雷によって中が偶然空洞化し、これを神様の思し召しだと考えた地元の司祭たちがマリア像をかたどったとのこと。このオークの内部に作られたチャペルはフランス革命や第二次世界大戦も生き延び、現在に至るまでミサが行われています。
赤信号の灯るヨーロッパ産オーク材の供給体制
このように、ヨーロッパ人の歴史と生活にとってなくてはならない木材資源であったオークですが、温暖化によるキクイムシの発生や気象異常による森林の喪失、さらにはコロナ禍に物流の混乱とロシアによるウクライナ侵攻が追い打ちをかけ、オーク材を取り巻くヨーロッパの現状は一変しました(参考:ウッドショックと木材不足、新世代床材の動向について)。
特に、今回のロシアの侵攻にロシア、ベラルーシ、ウクライナというヨーロッパでも指折りの木材供給国が巻き込まれたことは、ヨーロッパ各国のオーク材の供給体制に深刻な影響をもたらしています。ロシア、ベラルーシの木材は「紛争木材」としてヨーロッパによる購入がストップされ、戦火に巻き込まれたウクライナは木材資源を輸出できる状況にはなく、必然的にヨーロッパ全体のオーク価格は高騰を続けました。
その中でも特に供給体制に赤信号の灯るのは、一つの原木から採れる部分の限られている節や柄の少ない類のオーク材です。ただでさえ採集可能な部位が限られている中に、自然災害、コロナ、戦争といったマイナス要因が立て続けに発生したことで、もはや幅広で質の良いオーク材はダイヤモンドのような希少性をもって市場で取引されるようになりました。
今や、オークはドイツ人にとって心理的に身近な木材である一方、現実の生活では手の届きずらい存在になりつつあるわけです。
オーク材をめぐる持続可能な床材の模索
オーク材の、ひいては木材の供給の不安定さは最近に始まったことではありません。植樹から伐採まで長いスパンをかけて行われる木材産業は、自然災害や虫害といった予期できない要因によって常々脅かされていました(特に、こうした現象は地球温暖化による人災であるという声も多い)。
こうした不安定な木材資源を安定的な製品で補完する動きは、すでに2000年代前半からヨーロッパでは行われてきており、その最たる例が、オークを大量消費することで知られるヨーロッパの床材産業です。ラミネート床材、SPCフロアなどのように、すでに希少品として知られるオーク床材を安定的に供給可能にするために、オークの形姿を限りなく近く再現する、高度な人工床材が模索され続けました。
こうして生まれたオーク柄のSPCフロアは、木質オーク床材の持つ自然の調湿効果こそ持たないものの、人工であるがゆえの耐久性、耐水性を携え、かつ手に入りやすい価格での安定供給が可能となりました。
有史以来何万年と木材資源とともに歩み続けてきた人類にとって、そこからの脱却は容易ではありませんし、バイオ・フィリック理論が提唱するように、そもそも人間は自然から離れて暮らすことはできません。一方で、市場の資源が限られている以上、足りない部分をどこか別の資源で補う必要は出てくるでしょう。そうした、必要に迫られた人類の叡智によって、パラドー社はSPCフロアに本物同然にデザインされたオーク材という新製品にたどり着いたのです。
Oak Grey Whitewashed
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